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医療ビッグデータとは? 活用事例や将来の展望を解説!

医療業界の発展とよりよい医療を提供するために、国策として医療ビッグデータの活用が推進されています。本記事では、医療ビッグデータの基本知識や課題、活用事例、厚生労働省が進めるデータヘルス改革の詳細などを解説します。

医療ビッグデータとは? 活用事例や将来の展望を解説!

医療ビッグデータとは

医療ビッグデータの定義

2012年の情報通信白書によれば、ビッグデータとは「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」と定義されています。ビッグデータの特徴として、データの規模、種類の多様さ、利用方法、リアルタイム性などの量的、質的な側面が挙げられます。

引用元: 総務省「平成24年版 情報通信白書」第1部 特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋

その中でも医療ビッグデータは医療機関の情報を集めたもので、さまざまな医療提供に活用されます。例えば新しい治療法や新薬の開発、患者にパーソナライズした医療の提供など、さらなる医療技術向上のために重要な役割を担っています。

なお、医療データの利活用には一次利用と二次利用があります。一次利用は医療機関が診療・治療などの本来の用途のために利用します。一方、二次利用は研究機関、行政、企業などが治療法などの開発や調査・統計の作成、政策立案などの本来とは異なる目的に利用します。

医療ビッグデータが必要とされる背景

2018年に「次世代医療基盤法」が施行されたことで、医療ビッグデータの活用が積極的に行われるようになりました。次世代医療基盤法とは、医療ビッグデータを医療分野の研究・開発に活用されやすくすることを目的にした法律です。

医療ビッグデータには医療機関のレセプトや電子カルテ、健康診断の結果などが含まれており、これらのデータを分析することで、これまで以上に最適な医療提供が可能になります。

AI技術が発展したことも活用が促進される理由のひとつです。医療ビッグデータは通常、情報を利用しやすい形に加工する必要があります。医師が作成したカルテには表記ゆれや書き間違いなどがあるため、分析前に表記の統一作業が行われます。こういった加工作業はこれまで人力で行われていました。しかし、近年はデータサイエンス技術が発展したため、AIと連携することで医療ビッグデータの分析が効率的に行われるようになりました。

AIなどの最新技術と組み合わせながら医療ビッグデータを活用することで、患者に適切な医療を提供する環境の構築が期待されています。データヘルス改革なども国策として推進されており、保健医療ICTサービスの普及やデータプラットフォームの整備が進められています。

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医療ビッグデータの種類

医療ビッグデータは、電子カルテ、レセプト、DPC、特定健診、臨床、調剤、ゲノム情報、画像診断や健康診断、特定健診、検査結果などの膨大なデータで構成されています。

電子カルテには、問診、検査・診断、処方などのデータが含まれます。レセプトには医療行為や医薬品、診療報酬などのデータが記録されており、健康保険加入者の疾病や医療費の構造を把握するのに役立ちます。DPCは定められた点数に基づいて入院診療費を計算する方式であり、入院や手術にかかった費用の分析や病気の臨床研究に活用されます。

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医療ビッグデータ活用のメリット

病気の早期発見ができる

医療ビッグデータの分析は、病気の早期発見に大きな助けとなります。特にAIを用いた画像診断は典型的な例です。人間の目では見逃しがちな小さな病変も、AIは膨大なデータを元に精密に判断できます。その結果、患者の疾患を早期に発見し、素早い治療と回復に繋げることが可能です。また、ビッグデータの分析と共有は生活習慣病の予防にも役立ちます。自覚症状がない患者に対しても、医師が有効な治療や予防のアプローチを取りやすくなります。

ゲノム医療でもビッグデータが活用されています。人間の遺伝情報は膨大なため、人力で調べるのは大変な労力が必要です。そこで、AIによる遺伝情報のビッグデータ解析を行うことで、ガン治療に役立つゲノム医療の発展を目指そうとする動きがあります。

客観的に診療ができる

人間が診療すると常に個人差やエラーのリスクがついてきます。しかし、AIは学習したデータに基づいて機械的に判定するため、常に一定の精度で客観的な判断ができます。これにより、時間・場所に関係なく、全国で均等な医療サービスを提供でき、地域格差を解消することが可能です。

診断以外にAIは病気の治療段階でも活躍します。医療ビッグデータを活用して小さな病気の兆候を見逃さず、データに基づいて主治医の判断をサポートします。AIのサポートがあることで、医師は一人ひとりの患者に最適な治療法を提案しやすくなります。人間とAIが協力できる環境を整えることで診断ミスのリスクが低減し、病気への適切な対応を強化することが可能です。

このように医療における人間とITの連携は、医療の品質向上と医師の負担軽減に役立ちます。医療データの蓄積が進めば進むほどAIの診断精度も向上していくため、早期に導入することで患者に適切な医療を提供しやすくなります。

医療コストの削減ができる

医療ビッグデータの活用で病気の早期発見ができるため、手術などの治療回数を減らすことが可能です。早期の治療で病状が悪化する前に対処でき、重症化する患者数を減らせます。手術や高額治療を必要としないケースが増えるため、医療費削減に効果的です。

また、医療データの集約とAIの活用により、医療従事者の負担も軽減できます。AIの精度が高まれば、医師の診察を補完し、診断や処方の効率化が可能になります。電子カルテの共有により、患者の過去の診療内容を簡単に参照できるため、重複検査の削減や初診時の検査費用削減も期待できます。さらに、医師や看護師など医療従事者の労働環境改善にも寄与し、病院経営の効率化も実現します。

医療ビッグデータの活用事例

PHRヘルス

医療ビッグデータの活用事例のひとつとして、PHR(パーソナルヘルスレコード)があります。これは生涯にわたる健康増進や生活改善をサポートする「生涯型電子カルテ」としても知られています。PHRは、患者自身が健康・医療・介護に関する情報をデジタルで統合的に収集・保存する仕組みで、患者や健常者の自己管理能力の向上を支援し、医療データの一元化による健康寿命の延伸に貢献する役割が期待されています。

PHRには自己測定した血圧や血糖、体重などのバイタルデータや、食事・運動などの情報を患者が入力する個人データと、病院や薬局などから取り込まれるデータも含まれます。また、母子健康手帳や学校の健康診断結果、お薬手帳などの紙媒体の記録もデジタル化して一元管理することで、患者の健康増進や生活改善に役立ちます。また、災害時の対応や転院時の情報共有などにも活用できます。

さらに今後は、スマートデバイスやIoT、AI技術の進展、ウェアラブルデバイスの普及、高速な通信環境の整備により患者のデジタル環境はますます進化し、使い勝手が向上していくことが期待されています。

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予防医療

医療費の増加は世界的な課題です。日本でも、超高齢化による医療費激増が国の財政を圧迫しているのが現状です。これからは、いかに健康寿命を延ばすかが、増え続ける医療費の削減に直結します。そのような中、医療ビッグデータは健康寿命を延ばすために、病気を未然に防ぐ予防医療や最新の研究に役立てられています。

例えば、日本では大学がガンに関するビッグデータの収集・分析を行い、メカニズムの解明、早期発見や予防、特効薬の開発を行っています。また、イギリスでは世界最大のガンに関するデータを公開しており、ガン治療に重要な情報を提供しています。このように医療ビッグデータを分析することで、ガン発症のメカニズムの発見や予測を行い、予防医療の実現に繋げています。

さらに日本では、政府や日本経済団体連合会が次世代型の社会「Society 5.0」を提唱しています。これにより、さまざまな先進技術を使って個々人の生理計測データや医療情報をAIで解析することで、生活支援や健康促進、最適治療、負担軽減の実現を目指しています。

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このような医療ビッグデータの活用を通じて適切な予防策や治療を提供することで、医療費の削減に繋がります。これからも先端技術やデータ解析を活用した新しいサービスの研究・開発の進展によって健康的な社会が実現していくことに期待が寄せられています。

新薬開発

新薬開発は高コストで成功率も低い課題を抱えています。しかし、医療データとAIの組み合わせにより、新薬開発の効率化と開発費の大幅な削減効果が期待されています。薬の研究開発では非臨床試験と臨床試験が行われ、どちらも10年近い年数がかかるうえ、開発費も数千億単位と多額の費用を要します。そこで注目されているのが、AIと医療ビッグデータを活用した新薬開発です。

AIを使って遺伝子情報の解析などを行うことで、新薬開発に役立つ研究対象物を絞り込んだり、個別化医療を進められたりできます。これにより、新薬の開発効率が向上し、莫大な開発費用を削減できると見込まれています。特にガン治療の分野では、個々の患者の遺伝子情報を解析し、最適な医療を行う個別化医療が進展しています。

医療ビッグデータとAIの活用で効率的かつ効果的な医薬品の開発が進むことで、新薬開発と患者の治療に大きな恩恵がもたらされることが期待されています。

厚生労働省のデータヘルス改革

データヘルス改革の概要

現在の日本は超高齢化が進み、2050年には高齢者が36%に達し、現役の働き手が減少するなどの変化が予測されています。こうした社会変化に対応するため、国民の健康寿命を延ばすこと、少ない人手でも医療が機能する体制の整備などが急務です。それらを実現するために、厚生労働省では2040年を展望としたデータヘルス改革に取り組んでいます。

改革のために必要なこととして厚生労働省が挙げているのは「健康・医療・介護に関する国のあるべき姿」を検討し、「患者・国民に真に必要なサービス」を特定することです。

そのために、健康・医療・介護のデータを整理し、効率的な施策を実現するためにICTインフラを改良し、患者・国民・利用者の視点に立ったデータヘルスの推進を目指しています。データヘルス改革の推進には医療データの活用が必須ですが、同時に個人情報保護・セキュリティ対策の考慮も必要です。

引用元:厚生労働省「データヘルス改革推進本部」

データヘルス改革の取組

今までの保健医療制度や医療施策では、ICTの利用に課題がありました。データが分散していて医療データの連結も不十分だったため、国民がメリットを感じるに至りませんでした。そのため個人の健康管理が難しく、災害時の医療対応にも問題が生じることがありました。

こういった従来の問題を打開し、データヘルス改革を推し進める具体的な施策として、自治体や医療機関が保有するデータを連結する情報システムの整備や、医療データの収集・分析の強化を通じた最適な保健医療サービスの提供があります。これらにより、個人に合った健康管理・診療・ケアが提供できます。また、予防医療やデータに基づく科学的な介護の実現と介護負担の軽減、新たな治療法の開発にも貢献します。

このシステム構築は大規模なため、官民の協力が必要です。また、特定ベンダーに依存せず、開かれたシステムとすることも重要です。そのため、利活用目的ごとに標準化や技術事項を検討するワーキンググループも設置され、多くの関係者が共に検討していく方針です。

データヘルス改革の推進方法

データヘルス改革は医療ビッグデータ、AI、ICTの活用により推進されていきます。例えば、医療ビッグデータやゲノム情報の活用で新しい診断や治療方法を開発、適切な治療の提供に繋げます。さらにAIの活用により、医療サービスの高度化と医療従事者の負担軽減も可能です。ICTの活用が進むと、患者や医療現場で必要な医療情報を確認できるようになり、健康増進や医療従事者と患者のコミュニケーション促進に寄与します。

そのほか、マイナンバーを活用した健康保険証やマイナンバーのスマホ搭載も進められる予定です。健康保険証の代わりにマイナンバーカードを使用することで、患者は高額療養費制度や医療費控除の利用がしやすくなるほか、マイナポータルで自分の服薬や検診などの保健医療情報を確認・活用しやすくなります。医療従事者にとっても、オンライン資格確認システムの利用により、返戻レセプト減少などの事務負担が軽減されるメリットがあります。

医療ビッグデータの課題

セキュリティ対策・プライバシー保護が必要となる

医療ビッグデータの活用では、個人情報保護・セキュリティ対策もセットで考える必要があります。近年、IoTデバイスの増加やテレワークの拡大などが進んだ一方で、多くの組織で情報漏洩や金銭の詐取、業務・サービス障害などのサイバー攻撃を受けるリスクが高まりました。医療機関の場合、電子カルテの漏洩リスクの高まりや情報がロックされて身代金を要求されるケースが増加しています。このような脅威は今後もさらに深刻化すると予想されており、組織のセキュリティ体制の強化が急務です。

また、セキュリティ対策に加えて、プライバシー侵害リスクにも対処する必要があります。医療ビッグデータの中にはパーソナルデータや個人が特定できるグレーゾーンのデータが含まれています。医療ビッグデータを活用するには個人情報が悪用されないように匿名加工などをする必要があります。

なお、総務省も諸外国の事例を参考にしつつ、情報セキュリティ政策に取り組んでいます。セキュリティとプライバシーの両面をしっかりと考慮したデータ活用が、医療ビッグデータの課題を解決する重要な鍵です。

データの標準化に労力が必要となる

現状の医療データは標準化されておらず、利活用を進めるには標準化されたフォーマットが必要です。電子カルテなどの標準化は進展していますが、全分野の完全な標準化には時間と費用がかかります。

データ分析の精度向上には、入力データの精緻化が不可欠です。医師によって書き方が異なるため、電子カルテの書き方の標準化を行う必要があります。データの入力段階で決まったフォーマットを用意し、項目も細かく決めておくことが重要です。厚生労働省の資料によると、カルテ情報交換の規格・項目として傷病名、アレルギーや感染症や処方などの情報を採用することが検討されており、その他の情報も段階的に拡張する予定です。なお、カルテの入力作業は、AIの自動作成で労力を軽減するやり方もあります。

現在、電子カルテデータの標準化が進んでいますが、業界事情やさまざまな問題があり、想定した効果を上げるには時間がかかることが予想されています。しかし、医療ビッグデータの活用は国策であり、世界的な取り組みです。そのため、中長期的には医療データの活用が進展していくものと考えられます。

人的リソースが必要となる

医療データを分析するには、医療や健康分野に詳しいデータサイエンティストなどの人的リソースが不可欠です。医療分野のデータサイエンティストは、統計データから病気の発症傾向を見つけることや、医療データを分析して新しい治療方法を発見したり新薬の開発に活かしたりなど、医療の発展に欠かせない役割を担っています。また、これらの分析を行うには、機械学習やAIなどを扱う高度なIT知識や技術、統計分析、プログラミングに加えて医療の知識も求められます。

新しい職種であることに加え、医療以外でも多くの分野でデータ活用が進み、データサイエンティストの需要が高まっています。そのため、十分な医療知識があるデータサイエンティストを確保できるかどうかも喫緊の課題です。

医療ビッグデータの普及状況と将来の展望

次世代医療基盤法の影響を受け、現在、医療ビッグデータの活用を積極的に行おうとする流れがあります。
医療ビッグデータを活用するには個人情報の匿名加工が必要ですが、その加工の責任が医療機関にある点や適切な加工業者を見つけるのが困難という問題がありました。次世代医療基盤法の施行後は、国が認定する事業者に委託することで匿名加工の負担軽減と情報セキュリティ確保が担保されるようになっています。また、改正によって仮名加工医療情報が利用可能なったことや、公的データベースとの連結が可能になった点も活用促進に繋がっています。

さらに、マイナンバーとの連携も医療ビッグデータ活用の普及を担っています。マイナンバーカードを保険証として利用することで、患者の保健医療情報を全国の病院で確認・共有できるようになります。これにより、最適な診断や治療が提供できる体制の構築が進められます。このほかにも、厚生労働省が進めるデータヘルス改革なども、データ活用が推進される要素のひとつです。

医療ビッグデータの将来性を市場規模の観点で見た場合、富士経済の調査によれば、医療ビッグデータビジネス関連の国内市場は2035年予測で7,191億円規模になる見込みです。医療業界以外に保険会社や金融機関でも医療ビッグデータの活用が開始されており、今後も市場規模が大幅に拡大する予測が立っています。

参照元: 富士経済グループ「医療ビッグデータビジネス関連の国内市場を調査」

まとめ

医療ビッグデータの利活用によって、病気の早期発見や患者一人ひとりにパーソナライズされた適切な医療の実現が進みます。医療機関にとっても事務負担の軽減や、客観的な診療の実現など多くのメリットがあります。国策としても医療ビッグデータの活用が推進されており、今後もますます活用が進んでいくと予測されます。

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