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教育・子育て

教育ビッグデータとは?背景や目的、活用事例を解説

近年、スマートフォンやタブレットなどが普及し、AI やクラウドの発展もあって、ビッグデータと呼ばれる多様で大量なデータを扱えるようになっています。この変化はビジネスシーンに大きな影響を与えており、教育現場での活用も始まっています。教育ビッグデータを適正に利用できれば、教育現場で起こっている問題の多くを解消・改善できます。

そこで本記事では、教育ビッグデータの概要や求められる背景、利用例や現状の課題などについて解説します。

教育ビッグデータとは?背景や目的、活用事例を解説

教育ビッグデータとは

そもそも「ビッグデータ」とは、人間にとって全体の把握が困難なほど巨大なデジタルデータの集まりを指します。

教育現場においては、従来も生徒の名前や住所、試験の点数などのデータが集められてきました。それらのデータは、教員などが個々の学習状況を個別に把握したり、学校や学年の平均点を出したりする際など、さまざまな場面で活用されています。

加えて近年は、教育現場でもタブレットが普及しており、クラウドが活用できる環境も形成されてきています。これによって、収集できるデータの量は格段に増えています。

例えば、学習アプリの記録をAIで分析することで、特定の試験問題に対して生徒たちがつまずきやすいポイントを把握できます。また、生徒たちが使っているアプリなどが把握できれば、どんな学習方法を選べば問題を改善しやすいのかも分析可能です。このように、従来では収集や把握が困難だった多様で大量なデータの集まりを、「教育ビッグデータ」と呼びます。

教育ビッグデータをうまく活用できれば、生徒たちに、より良質な学習環境を提供できるほか、教員の負担を減らすことも可能です。さらに、公務データの把握も容易になるので、学校運営の効率改善なども期待できます。

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教育ビッグデータが求められる背景

ここでは、教育ビッグデータが求められるようになった背景を、4つの視点から解説します。

求められる能力の変化

近年、インターネットの普及によって情報を得やすくなったことで、それを活かす読解力や分析力が重視されるようになりました。さらに、AIやロボット産業の発展によって、人間には単純作業よりも思考力や判断力などが求められるようになっています。

加えて、急速なグローバル化により多様なルーツを持つ子供たちが日本社会に増えたこともあり、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という理念を達成するために、教員には以前よりもコミュニケーション能力や表現力が求められるようになりました。

社会構造の変化

AIやビッグデータが社会に定着してきたことで、ビジネスモデルや社会構造の変化も進んでいます。例えば、宿泊業や飲食業などでは、気象などを含めた多くの条件から来客数を予測し、人的リソースや食品在庫を最適化する取り組みが行われています。また、販売関係の業種では、顧客の好みや行動パターンを細かく分析することで、売上や利益を増やすことも可能となっています。

これらの例は、一見すると教育現場とは無関係に思えるかもしれません。しかし、ビッグデータやAIを有効活用できる社会は実際に到来しており、教育現場においても同様に、その利点を活かすことが重視されるようになっています。

例えば、教育DXの推進により、近年では、個別最適化された教育の提供が目されています。教育ビックデータとAIを活用し個々の生徒の習熟度合いを正確に把握することは、生徒の学習状況に応じた教育の提供の第一歩です。

関連記事:教育DXとは? 推進が求められる理由やメリット・課題・事例を紹介

雇用環境の変化

近年、仮想空間と現実空間を高度に統合することで、社会問題の解消と経済発展を両立する社会(Society5.0)の到来が叫ばれています。Society5.0時代においては、単純労働がAIやロボットに置き換えられていくため、人間には高い発想力や応用力が求められるようになっています。

また、これまで日本では、まず人材を確保したあとに役割を定める「メンバーシップ雇用」が主流でした。しかし昨今では、職務にマッチしたスキルを持つ人を採用する「ジョブ型雇用」を重視する企業が増えています。この点でも、個別の学習を支援しやすく、知見の共有や生成がしやすい教育ビッグデータの必要性が増しています。

関連記事:Society5.0 (ソサエティ5.0) とは? 技術や取り組みをわかりやすく解説

子供たちの多様化

日本社会のグローバル化が進んだために、学校でも海外にルーツを持つ生徒が増えています。文部科学省総合教育政策局 国際教育課が2021年に出した「外国人児童生徒等教育の現状と課題」の報告によれば、2008年から2018年までの10年間で、日本語指導が必要な生徒は1.5倍増になったとされています。

参照元:外国人児童生徒等教育の現状と課題

また、発達障がいや知的障がい、貧困状態にある生徒への配慮など、子供たちへの対応の幅は広がっています。このように教育の対象である子供たちが多様化していることも、教育ビッグデータの活用が望まれる背景のひとつです。

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教育データを活用する目的

ここでは、教育ビッグデータをどのような目的で使用するのかを、児童・生徒の側と、教員の側、大学や研究機関などの多様な視点から記載します。

児童・生徒の学習をサポート

学習にデジタルツールを使っていれば、学習の過程を細部まで記録可能です。そのため、従来はデータ化されていなかった過去の学習履歴が残るうえに、必要に応じていつでも振り返れるようになります。これによって、苦手な項目や間違いの傾向などが把握できれば、問題の克服を効率化して学習時間を短縮することも可能です。また、将来的には苦手な問題をAIが把握して、克服する問題を生成するような使い方もあり得ます。

このように、特性や成績に合わせて学習方法を個別最適化できるのは、教育ビッグデータを活用することの大きなメリットです。

学校教員等の指導を改善

教育に関連するデータをデジタル化すれば、学校教員など教える側の効率化も促進できます。

例えば、算数の問題の中で子供たちが間違いやすいポイントを可視化できれば、教員の側は教え方の工夫がしやすくなります。また、個々の生徒の間違いの傾向を把握すれば、学習の進捗を詳細に把握することが可能です。

さらに、教員の教え方もログに残るようになれば、どのように指導すれば成果につながりやすいのかも把握できます。近年は教員の不足が叫ばれており、多くの学校が対策を求めている現状があります。そんな中で、ベテラン教員の経験値をデータ化し、経験が浅い教員が利用するなど、社会全体の問題解決に寄与することも可能です。

大学や研究機関で新たな知見の創出

教育ビッグデータを円滑に利用できれば、新たな知見を生み出すことも可能です。

例えば、岡山大学では蓄積したビッグデータとeラーニングを活用して、学力が低い子供の自己評価得点と学習サイクルをグラフ化し、学習意欲の向上につなげた実績があります。

参照元:岡山大学「教育ビッグデータを活用したeラーニングで、児童の意欲を劇的かつ確実に向上させられることを世界で初めて実証-意欲低位層を軒並み平均レベルに上げられる-」

また九州大学は、受講生の学習状況を教師が授業を行いながら把握できる、「リアルタイム学習ダッシュボード」を開発しています。これによって、受講生が教師の説明に追従しやすくなったという成果も上がっています。

参照元:九州大学「教育ビッグデータに基づく学習・教育の改善や支援に関する研究」

教育ビッグデータ収集・活用に当たっての留意点

個人情報保護を考慮する必要がある

教育ビッグデータは、児童・生徒の学習ログを集積するなど、情報を大規模に集めることで成立します。ただし、学習ログの中には個人情報も含まれていることに注意しなければなりません。

NTTラーニングシステムズは、2023年3月に「教育ビッグデータに関する仮名化工・匿名加工ガイドライン(案)」を作成しています。この中では、新しい学習支援の仕組みを研究するにあたって、個人名を仮名または匿名化する手法がまとめられています。

参照元:教育ビッグデータに関する仮名加工・匿名加工ガイドライン

データの収集・解釈に偏りが生じる可能性がある

教育ビッグデータを有効に活用するためには、まず収集するデータに偏りがないことや、データの使用や分析にあたって不要または不当なバイアスが働かないように注意しなければなりません。

そのため、ラーニングアナリティクスの実施にあたっては、データの標準化や整備などが欠かせません。さらに、分析したデータや分析によって得られた知見を広く共有することも重要視されています。

教育ビッグデータの2種類の規格

xAPI|教育コンテンツとシステム間を連携

そもそもAPIとは「アプリケーション・プログラミング・インターフェース」の略語で、別々のアプリケーションやプログラムを連携させる役割を担います。

一方、xAPIは「Experience API」の略語で、学習ログを記録したり収集したりするために役立つ規格です。「誰が、何を、どうした」という命令文(ステートメント)の受け渡しを行うことを特徴としています。

また、xAPIは次項で解説するCaliper Analyticsと同様に、教育ビッグデータの規格のひとつです。それぞれ目的が異なるので、使い分けや組み合わせを考える必要があります。

Caliper Analytics|Sensor API を用いてデータを一元管理

Caliper Analyticsは、IMS Global Learning Consortiumが定めた規格です。2013年にリリースされたxAPIよりも後発で、2015年に最初のバージョンがリリースされています。Sensor API を用いて、多数のアプリケーションと端末の間に発生する学習ログを一元管理することが可能です。

教育ビッグデータの今後の方向性

教育データの標準化

教育ビッグデータの情報は、生徒や教師の名前・生年月日などの個別情報のほか、学校の生徒数などを把握する「主体情報」と、学習内容や教科書の詳細、教材の権利などを示す「内容情報」、生徒の健康状況や出欠、成績などを示す「活動情報」に分類されます。

上記のどの情報も、適正に活用するためには、事前にデータの形式を統一し標準化しておく必要があります。形式が揃っていない場合、データをどれほど集めても分析ができないからです。また、形式が統一されていなければ、システム間でデータを流通させることも不可能です。

GIGAスクール構想の実現

GIGAスクール構想とは、文部科学省が2019 年に発表したもので、個々の児童・生徒に合わせた教育を提供することや、子供たちが主体的に学ぶ環境を作ることを目的としています。

GIGAスクール構想には、小中高の教育現場でタブレットやパソコンを活用できる体制を整え、さらに高速大容量の通信ネットワークの導入も組み込まれています。発表当初は2019年から5年間で整備を進めていくことが考えられていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によってオンライン学習の重要性が上がったため、スケジュールが早められた経緯があります。

なお、GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」の略語です。

諸外国の教育データの活用事例

イングランド|MISを活用して新たな教育を実現

イングランドでは、学校ごとにMISと呼ばれる管理情報システムが導入されています。これによって出席状況や成績、課題の提出状況などの把握が可能となり、個別に指導を必要とする児童の把握もできています。

また、MISは学校内でだけ利用されるのではなく、教育省などの公的機関がデータを抽出し、学校行政の把握検討に利用されています。そのため、各学校は行政機関に報告書などを提出する必要がなく、運営自体の効率化にも貢献しています。

アメリカ|CEDSプロジェクトによりデータ標準化を実現

アメリカでは、CEDS(共通教育データ標準)と名付けられた連邦プロジェクトが2009年から導入されています。CEDSでは、教育に関連する1,700以上もの用語が定義付けられており、学校現場に加えて、未就学児の教育や企業内で行われる研修なども踏まえたものとなっています。

アメリカは連邦制なので、CEDSの利用が全州に義務付けられているわけではありませんが、参考として公開することで多くの州に利用されています。また、CEDS以外にも学習上の問題点を把握・分析するシステムは多数利用されており、学力の向上に貢献しています。

中国|AI+ビッグデータによるEdTechの研究が加速

中国では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、AIとビッグデータを用いたEdTechが急速に普及しました。EdTechとは、「Education(教育)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、教育関連にイノベーションを起こす取り組みやシステムを指します。

中でも「Zuoyebang」というEdTechサービスは、すでに1億人以上に利用されており、オンライン授業や宿題のサポートにも貢献しています。例えば、生徒が問題を解いてスマホで画像を撮影し送信すると、AIがビッグデータから解析を行って解答を返信するシステムが利用されています。さらに、似た種類の問題を提供することで、該当分野の理解度を深めるサポートも存在します。

関連記事:エドテック(EdTech)とは? 注目される背景や実現できることを解説

まとめ

教育ビッグデータは、生徒の学習ログなど、教育現場で発生するデータを集積した多様で巨大な情報群です。うまく利用すれば、個別に適正な教育を実施することや、学校運営の効率化に役立ちます。

利活用にあたっては個人情報の保護やデータの標準化など、課題や注意点もありますが、海外では多数の成功例があり、日本国内でも大学などの研究で成果が上がっています。文部科学省もGIGAスクール構想を打ち立て、教育ビッグデータの積極利用を進めているため、ぜひこの機会に利用を検討してみることをおすすめします。

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