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スマートツーリズムとは? デジタル化に取り組む観光事例も紹介

観光業や旅行業の新たな取り組みとして「スマートツーリズム」が活発化しています。

この記事では、スマートツーリズムの定義について、日本と海外を比較したうえで、企業や自治体が取り組むメリットを解説します。成功した事例についても紹介しますので、取り組む際の参考にしてください。

スマートツーリズムとは? デジタル化に取り組む観光事例も紹介

スマートツーリズムとは?

近年、世界の観光業界で注目を集めている「スマートツーリズム」とは何かについて、定義や国内と海外との違いを中心に解説します。

日本でのスマートツーリズムの定義

そもそもツーリズムには、観光や旅行といった意味があります。観光業界では、90年代にインターネットが普及してきた頃からすでにWebでの観光案内サービスを実施するなど、デジタル化を推進してきました。

ただ、観光業界は消費者のニーズに左右されやすい業界です。しっかりニーズを把握し対応しなければ、あっという間に市場から取り残されてしまいます。そこで注目を集めているのが「スマートツーリズム」です。これは最新のデジタル技術などを駆使し、多様化する消費者や社会のニーズに応えていこうとする観光・旅行業界の取り組みです。

たとえばAR(Augmented Reality:拡張現実)技術などを用いれば、観光に新たな付加価値を付けることができます。観光客が気になる現地の混雑状況や天気など、幅広い情報をリアルタイムで提供することも、スマートツーリズムの取り組みです。

なお、2020年に経済産業省が発行した「スマートリゾートハンドブック」では、以下のように定義されています。

"デジタル技術を活用し、これからの人々のニーズ(学びや現地での本物体験への追求等)を満たすサービス提供により、地域への誘客拡大、滞在長期化や消費促進、及びそれによる地域の各主体(住民、行政組織や事業者、地域環境・文化等)の持続的な価値獲得や創出を目指す"

引用元:経済産業省「スマートリゾートハンドブック」2020年3月 
※ハンドブック内ではスマートツーリズムではなく「スマートリゾート」と呼ばれています。

後述する海外の定義に比べるとやや行政目線に偏っている点が見てとれます。

海外でのスマートツーリズムの定義と取り組み

Ulrike Gretzelらは、「スマートツーリズム: 基礎と発展(2015)」において、以下のように定義付けました。

"最先端技術を使用したインフラ上に構築された革新的な観光地であり、誰もがアクセスでき、訪問者と周囲との交流が促進され、体験の質や目的地での生活の質を向上させ、更に観光地の持続的な発展を保証する"

引用元:Ulrike Gretzel, Marianna Sigala, Zheng Xiang & Chulmo Koo"Smart tourism: foundations and developments(2015) ”

ここで注目すべき点は、最新のデジタル技術を用いて観光地と観光客のデータをリンクさせ、新しい価値と持続可能性を創造する取り組みとされているところです。また、デジタル活用を前提として、観光客のみならず地域住民もふくめた双方を対象にしているところもポイントです。

欧州スマートツーリズム首都の選出

EUではスマートツーリズムを推進するために、欧州議会の提案によって2019年から次の観点で評価した「欧州スマートツーリズム首都」を選定しています。

  • デジタル化
  • アクセシビリティ(誰でも利用しやすいか)
  • 持続可能性
  • 文化遺産および創造性

たとえばフランスのリヨンはアクセシビリティとデジタル変革、伝統への敬意などが高く評価され、2019年に認定されました。翌年にはスペインのマラガが、デジタル化を積極的に取り組んだことが評価され、選ばれています。

条件をクリアし欧州スマートツーリズム首都として認定されると、EUからプロモーション活動に関するさまざまな支援を受けられます。

参照元:独立行政法人経済産業研究所「スマートツーリズムを観光関連事業者の新たな収入源に」

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スマートツーリズムがもたらす期待できる効果

スマートツーリズムは、観光業界にデジタル化を浸透させる取り組みであり、観光DXに欠かせない施策としても注目を集めています。スマートツーリズムは観光業界にとってどのような効果をもたらすのか、具体的に4つ解説します。

関連記事:観光dxとは?国内外の取り組み事例から見える観光業界の問題点

1. 観光客の利便性が向上する

これまでは、デジタル化といっても観光客へ一斉に情報を提供するなどの方法が主流でした。しかし近年は、デジタルデバイスやAI、IoTなどを活用することで、個々の観光客の行動やニーズに適した情報を提供する取り組みが活発化しています。

たとえば観光地までの道中、リアルタイムの交通情報や混雑状況を提供すれば、観光客は行きたい場所へスムーズにアクセスでき、快適な旅行が実現します。IoT端末による位置情報システムで現在の観光地情報を取得できたり、当日限定のクーポンや割引券が発行されたりするため、時間やコストをかけずに観光を楽しめます。

2. オーバーツーリズムが解消される

観光地にとって、観光客が増えることはうれしい反面、ネガティブな側面もあります。たとえば、観光客によって大量のゴミが廃棄されることで、観光地の自然環境や景観、住民の生活環境が悪化します。海外のみならず、日本でも観光客の増加によるオーバーツーリズムは深刻化しています。

しかし、上記1.で挙げたようにリアルタイムの交通状況や混雑状況などを観光客に情報提供することで、観光地の混雑や負荷を分散でき、オーバーツーリズムの解消につながります。

また、オーバーツーリズムなどの課題を受け、日本では2018年、観光庁に「持続可能な観光推進本部」が設置されました。観光地が今後も維持、成長していけるように、観光客のニーズをくみながら、地域住人とうまく共存・共生する方法について検討されています。

参照元:観光庁に「持続可能な観光推進本部」を設置しました

3. 新産業・新サービスが創生される

1981年頃以降に生まれた人は「デジタルネイティブ世代」と呼ばれ、幼いころからインターネット環境やデジタルデバイスのある生活が当たり前になっている世代です。今後ますますデジタル社会が発達すると予想される中、既存の観光産業のまま放置していると、そうした人々のニーズを満たせなくなります。

レンタカーサービスを例にとっても、デジタルネイティブ世代は運転免許を取得していない、自動車を保有していないため運転技術が低いなどの理由から、自分で運転するレンタカーに抵抗感があるケースも少なくありません。そのため、こうした層へアピールするためには、自動運転サービスなど最新機能を搭載した車両を用意することも必要です。

現代は観光へのニーズも変化しています。昭和時代は「名所をめぐって見ること(Seeing)」が観光客の目的でした。しかし平成時代になると、観光スポットを見るだけではなく、そこで「何ができるか(Doing)」が大事にされるようになりました。デジタル社会の令和時代は、現地でのリアルな交流やそこでしかできない体験などを通じて、偶発的な発見や学び(Being)を得られることに価値が移行しつつあります。

こうした状況から、観光まちづくりのあり方自体を見直すことが大切です。つまり、かつて主流であった「事業者側の考えを軸とした断片的なサービス」から、「ユーザー体験に立脚したサービスへの転換」です。たとえばオンラインで作成した旅行プランに基づき、複数の移動手段や宿泊先などを一元管理できるサービスの提供などが考えられます。

4. 人材不足の解消・業務効率化を実現できる

新産業の創生やさまざまなサービスの実用化には、デジタル技術が欠かせません。そしてデジタル技術の活用は、おのずと人材不足の解消や業務効率化につながります。

日本は少子高齢化に歯止めがかからず、各業界で人手不足が叫ばれています。国土交通省観光庁の「令和3年度 地域における観光産業の実務人材確保・育成事業」によれば、観光業界の人手不足はとくに深刻な状況です。また観光業では以前から生産性の低さが指摘されており、業務効率化が課題となっています。ポストコロナ時代に向かう今、再びインバウンド需要が高まっているため、早急な対策が必要です。

従来の観光業は、ホテルや旅行代理店、航空会社、鉄道会社といった限られた業種で支えられてきました。しかしこれからの時代は、地域住民をふくめてさまざまな分野の業種とコラボレーションし、新しい産業やサービスを創出しなければなりません。その際、デジタル技術が必要になるはずです。業務の効率化や自動化が図られれば、観光地にとって課題となっていた人材不足解消や生産性向上にもつながります。

参照元:国土交通省観光庁「令和3年度 地域における観光産業の実務人材確保・育成事業」

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日本でのスマートツーリズム事例

スマートツーリズムには多くのメリットがあるものの、具体的なイメージはわきにくいかもしれません。そこで、以下では日本の自治体や企業がどのような取り組みをしているのかについて、4つ紹介します。

日本政府観光局|欧州向けVR動画

日本政府観光局(JNTO)は、EU圏の観光客向けに、360°VR動画をYouTubeなどで公開しています。「JAPAN Where tradition meets the future VR」と名付けられた動画は、日本の主な観光地や伝統芸能、日本独自の文化などを紹介しています。特殊な撮影機材と技法を駆使したカメラワークによって、その魅力をよりリアルに感じられるのが特長です。

関連記事:観光業のVR活用法とは? AR観光との違いや成功事例を紹介

文化庁|日本遺産ポータルサイトでのVR旅行

日本には世界に誇る国宝や重要文化財が多くあります。そこで、文化庁は日本遺産ポータルサイトの中で、外国人向けに多言語情報やVR動画を配信しています。海外にいながらにして日本の貴重な文化財や遺産の魅力に触れ、旅行している気分を味わえます。オンラインでの疑似旅行体験は、スマートツーリズムならではの醍醐味です。

参照元::文化財デジタルコンテンツ

南紀白浜|顔認証観光案内板

和歌山県の南紀白浜空港では、顔認証を用いたデジタルサイネージを設置しています。あらかじめ自分の顔を登録しておけば、空港では名前入りで出迎えをしてもらえるため、特別感があります。

また、プロファイルから観光案内情報を自動で提供してもらえるのも、観光客にとって便利です。一方サービスの提供側は、観光客のニーズを把握しやすくなり、リアルタイムかつピンポイントに情報提供できます。このような顔認証は、ホテルでのチェックインや施設の入場など幅広く活用されています。

関連記事:ホテルにおけるDXとは? 成功のポイントや活用事例について解説

京都市・京都市観光協会|京都観光快適度マップ

観光地にとって感染症対策は重要課題です。感染リスクをできるだけ低減させ、安心して旅を楽しめるように、京都市や京都市観光協会は「京都観光快適度マップ」をオンライン上で配布しています。観光地の人の量を5段階で示す観光快適度の予測や、ライブカメラのリアルタイム映像を提供しており、観光客は目的地の混雑状況を把握できます。観光地に出向く前に確認しておけば、混雑をできるだけ回避しながら京都散策が可能です。

参照元:京都観光オフィシャルサイト

海外でのスマートツーリズム事例

日本のみならず、海外では多くの国がスマートツーリズムを実践しています。ここではヨーロッパや中国、韓国、アメリカの事例を6つ紹介します。

ヘルシンキ|バーチャル・ヘルシンキ

フィンランドのヘルシンキは、欧州スマートツーリズム首都の初代受賞都市として、早くからスマートツーリズムに取り組んできました。その中のひとつが「バーチャル・ヘルシンキ」です。高精細なVRコンテンツとして、バーチャル空間上にヘルシンキの街並みや観光名所が再現されているほか、普段は立ち入ることが困難な一部の場所の見学なども可能です。

参照元:Virtual Helsinki

アムステルダム|観光地推奨チャットボット

オランダのアムステルダムは、チャットボットを活用したスマートツーリズムを展開しています。観光客はアプリ上で興味・関心に関する質問に答えるだけで、それぞれの趣味や嗜好に合った旅行先を提案してもらえるため、旅行体験の向上が見込めます。一方、地域や事業者は魅力的な小規模施設などの情報を提供することで効果的に集客でき、一部の有名スポットだけが混雑する状況などを回避できます。

コペンハーゲン|シティカードアプリ

デンマークのコペンハーゲンでは、観光客向けに無料で美術館や公共交通機関を利用できる「コペンハーゲンカード」を提供しています。従来は紙ベースであったため観光案内所などでの手続きが必要でしたが、情報をデジタル化したことでアプリ上で手続きができるようになりました。紙で発行する人員が不要になり、コストの削減につながっています。観光客はアプリを使うことで施設を無料で利用できるなどコストを抑えて観光を楽しめるほか、主要施設や店舗の営業時間情報なども入手できます。

寧海県(中国)|720度見渡せる観光地紹介アプリ

中国の寧海県は山や川など豊かな自然にめぐまれている観光地です。またより観光客に魅力を知ってもらえるように、「寧海智慧旅游」というアプリを提供しています。このアプリを使えば、歴史上の貴重な建築物などを水平と垂直それぞれ360度ずつ、つまり720度で見渡せるのがポイントです。普段見られないような空からの風景も思う存分楽しめます。

サンフランシスコ|スマートパーキング

アメリカのサンフランシスコでは駐車場を探す車で混雑することによる大気汚染や事故が懸念されていました。そこで、リアルタイムの駐車場利用データを収集することで、車の出入庫を管理できるシステムを導入しました。観光客は、どの駐車場が空いているのかが事前にわかるため、探し回る必要がありません。また、アプリには駐車時間を延長できる機能や決済機能も搭載されています。

こうしたシステムを導入すれば、駐車場不足で公道に停めるといった違反行為の減少や渋滞の緩和につながり、オーバーツーリズムの解消に役立ちます。

ソウル|電動キックボード

韓国ソウルでは、車などに比べて環境負荷の少ない、電動キックボードのシェアリングサービスを提供しています。利用者は専用アプリから、借りる場所や利用可能なキックボード、電池残量、走行可能距離、料金などさまざまな情報を確認して選べるので便利です。事前に登録したクレジットカードから決済も可能で、面倒な手間もかかりません。借りた電動キックボードは、エリア内の公道ならどこでも乗り捨てられます。

観光客にとっては、エリア内の観光スポットを自由に動き回れるため満足度が上がります。地域としては、自家用車などの利用が減り、地域の交通渋滞緩和や排ガス削減につながるメリットがあります。

まとめ

スマートツーリズムは、これまでの観光業を変革し、デジタル社会に生きる観光客のニーズに応えようとする大切な取り組みです。自治体や企業が積極的に実践すれば、観光客や事業者のみならず地域住民やほかの業種も巻き込んで、新たな産業やサービスを創出できる可能性を秘めています。紹介したさまざまな事例を参考に、自社でどのようなスマートツーリズムを実現できるか、検討してみてください。

関連記事:観光業界はこれからどうなる? 最新の動向やDX推進について解説!

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